前書
近年の先進国は少子高齢化や出生率の低下が著しく、労働者人口も減少している。製造業界においても、業務を理解し高いスキルで現場を支える熟練工は高齢化し、引退を余儀なくされる。しかし、若手へのスキルトランスファーがうまく行わておらずノウハウの引継ぎが行わていないケースや、後継者不足・人手不足により廃業に追い込まれているケースもよく耳にする。
途上国へのアウトソーシングも積極的に行わていたが、現在途上国の人件費の増加し、政治的観点や疫学的な観点での地政学リスクが目立ち始めており、自国に生産拠点を戻し始めている企業も出現し始めている。
労働者人口の不足や技術を持った熟練工不足に対処するために、製造現場では製造をサポートするロボットアームを含むロボティクス技術の導入や、熟練工の経験や知見を再現し未熟な労働者をサポートするための機械学習やAI技術の導入が盛んに行われている。
こうした背景を基に、ドイツは世界に先駆けてインダストリー4.0の概念を2012年に発表し、スマートファクトリーを目指す取り組みを国策として扱い始めた。これを機に様々な国でインダストリー4.0に関する活動が行われるようになった(例:2014年に米国GE、IBM、インテル、AT&T、シスコシステムズによって設立されたIndustrial Internet Consortium(IIC)、 2015年日本でIoTを活用した製造業の新たな連携を実現することを目的として設立されたIVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)、 2015年中国で発表された産業政策の中国製造2025 )。
本レポートではインダストリー4.0の概要や使われている技術の全体像を示し、現在の状況から将来の製造業について考察を行っていきたい。現在使われている技術をベースにフォーカスしその延長として議論を行う。
なお、本レポートでは弊社の技術的観点からの検証の一部分しか掲載できていないため、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。
インダストリー4.0の概要
本章ではインダストリー4.0の概要を記載したい。インダストリー4.0の主要技術については次章で記載する。インダストリー4.0 (第四次産業革命)を理解するためにまずはインダストリー4.0までの流れをまとめたい(図1)。図1からインダストリー4.0は18世紀初頭に起こった産業革命の流れを受けた製造業の効率化実現の取り組みであることがわかる。
今日のインダストリー4.0はドイツの国家戦略の一つで「ハイテク戦略2020」で実施されている10プロジェクトの1つで、製造業の生産効率を高めるために情報技術を製造現場に組み入れることを目指す「Industrie 4.0」を起源としている。ドイツでは「Industrie 4.0 Platform」と名付けられた運営委員会が、ドイツを拠点とする大手製造業企業を中心に、2013年に発足し、様々な取り組みを行っている。
ドイツは「Industrie 4.0」にて「Cyber Physical System(CPS)」に基づいた「スマート工場」の実現を掲げてている。CPS とは、「実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワーク等で収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術等を駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくもの」*1である。より分かりやすくCPSを説明すると製造工程や工場の環境データを取得できるセンサーと、ネットワークに接続しデータ連携やクラウドにある計算資源と連携できる生産設備である。
ドイツの産学官有識者で構成された作業部会が作成した提案書である「インダストリー4.0 提言書」では、「ダイナミックセル生産」方式がCPSの活用例として紹介されている。
今日ではライン生産方式と呼ばれる生産方式が製造現場で採用されている場合が多い。ライン生産方式は決まった工程のみを行う専門の作業担当者が存在し、流れ作業により1つの製品を完成させる方式である(図2(a))。それに対して、自動車メーカーのVOLVO(ボルボ)が採用している「セル生産方式」とは、1人が1つの製品のすべての工程を行い製品を完成させる方式である。
セル方式とライン方式の大きな違いは、セル方式はすべての製造工程について知識が必要なのに対してライン方式は担当する工程のみ知識のみ必要とするという点である。作業員の観点からだと、セル方式の方が柔軟性が高いとされるが、複数工程の知識や技能が求められ負担が大きくなるとされる。
また、別の大きな違いとしては、セル方式が受注組立生産方式であるのに対し、ライン方式は計画的な大量生産方式であることが挙げられる。そのため、生産前に顧客の要望に合わせた仕様変更を実施する余地があるセル生産方式は、インダストリー4.0が目指すスマートファクトリ―の先にあるマスプロダクションとカスタマイゼーションを掛け合わせたマス・カスタマイゼーションの実現に向いた生産方式であること言える。
そして、「ダイナミックセル方式」は、セル生産方式をより発展させた生産方式である。その特徴は、生産設備や作業員がネットワークにつながることで稼働状況や負荷のデータを共有し、製造工程や製品の割り当てをAIによって動的に最適化することである(図2(b))。AIを搭載した補助デバイスによるサポートは、作業員の専門技能レベルを向上させるとともに作業負荷を低減させ、結果として製造における生産レベルや作業効率の向上をもたらす。
現在のインダストリー4.0は、2012年にドイツで提言された「Industrie 4.0」と比べると、機械学習やAIといった近年盛り上がりを見せているデジタル技術の色が非常に濃い。そのため、2012年と比較すると現在のインダストリー4.0ではGoogleやAmazonのようなプラットフォームやクラウドサービスを提供するIT企業の存在感や重要性が増している。
インダストリー4.0の概要の最後に、今後のインダストリー4.0に関する市場規模について言及したい。Value Report社のレポートは、インダストリー4.0に関するグローバル市場規模は2018年が68,125百万米ドルであるのに対して、2025年は205,236百万米ドルに拡大(年平均成長率17.06% )するという予測を記載している*2。また、経済産業政策局の新産業構造部会は、2013年から2022年でIoTが創出するグローバルベースでの経済価値はものづくり革新の分野で3.9兆ドルとなる予測や、人工知能関連の国内市場規模が2030年製造業分野で12兆円になるという予測について言及している*3。これらの予測は、インダストリー4.0が製造業において今後さらに存在感が増すことを意味している。既に、ドイツの自動車メーカであるVolkswagenが電気自動車を製造する自社工場に1,600台を超える最新世代の生産ロボットを導入するというような新技術を積極的に導入している大手企業の事例*2も存在している。
さらに、投資の観点からもインダストリー4.0に関する市場は存在感を増すように推測される。CB Insightsが公開しているレポート*4は、Industrial IoT分野への投資が年々増加していることや、2013年Q1のグローバルの投資額が95百万米ドルだったのに対して2018Q1は769百万米ドルに増加していることを示している。このことから、インダストリー4.0に関する市場は関連技術分野で参入を考えている企業やスタートアップ、投資家にとっても魅力的な市場であると考えられる。
インダストリー4.0の主要技術
本章ではインダストリー4.0の主要技術を簡単に紹介していきたい。本レポートでは技術を、①ハードウェア(HW)技術、②ソフトウェア(SW)技術、③複合技術(複数のHW技術やSW技術の組み合わせに分類した。1つ1つの技術について詳細は記載しないが、ご興味のある方はお問合せいただきたい。
HW技術 センサー・IoT機器、高性能カメラ、高性能マイク、GPS、エッジコンピュータ、クラウドコンピュータ、量子コンピュータ、大容量データベース、ロボティクス(ロボットアーム、搬送用犬型ロボット等)、3Dプリンタ、RFIDタグ、無人搬送車(AGV : Automatic Guided Vehicle )、タブレット型PC、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、アシストスーツ
SW技術 ビッグデータ、機械学習、統計分析、人工知能(AI)、自律システム、超高速・大容量通信、ブロックチェーン、画像処理技術、音声処理技術、BIM、デジタルツイン、XR(AR、VR、MR)、Business Intelligence、分散処理技術
複合技術 オペレーションを最適化する製造実行システム(MES : Manufacturing Execution System )、人的資源や在庫管理・サプライチェーンマネジメントを最適化する企業資源計画システム(EPR : Enterprise Resource Planning)、データ、IoT機器・3D printer・ロボティクスといったHWの制御や管理するPlatform、品質検査や異常検知・保全を自動化するためのHW/SW
インダストリー4.0の実現には複数の技術をネットワーク上で連携させることが重要となる。そのことから、HW、SWの制御やデータを統合管理し、オペレーション最適化やオートメーション自動化を実現するプラットフォームや複合技術は重要技術として考えられる 。
上記に述べたプラットフォームや複合技術、AI・機械学習のクラウドサービス提供といったデジタライゼーションの観点からインダストリー4.0の実現を支援している企業は複数存在するが、複数のサービスを一つに統合して扱えるようにしたサービスを提供している企業は少ない。その数少ない企業のひとつにSAPがある。SAPは会計や人事といったEPRシステムを提供するドイツの企業として広く認知されている。
近年SAPは製造業向けにMESやIoT機器と連携し、機械学習やAI、ブロックチェーン等の新技術を実装したクラウドプラットフォームを提供するなど、製造業界をターゲットに積極的なサービス展開をしている。SAPのこの動きは意外に感じられるかもしれないが、Industrie 4.0をリードしている「ドイツ技術科学アカデミー(Achatech)」の会長がSAPの最高経営責任者(CEO)だったHenning Kagermann教授であることを考えるとSAPのインダストリー4.0向けサービス拡充の動きは充分に納得ができる。
スモールスタートで始めるインダストリー4.0
インダストリー4.0で着目されている主な技術について前章で取り上げた。これらの技術は今後スマートファクトリ―を目指すのであればいずれ業務への導入が必要になると考えられる技術である。しかし現時点では、技術レベルが未成熟であったり、新技術導入が業務に与えるインパクトの見積もりが難しかったり、工場の既存設備の入れ替えや、部分的な改修にかかる費用の問題から、ハードルが高いことは容易に考えられる。
しかし、新しい技術導入に取り組みたいという積極性や、何かしらの取り組みをしなければならない状況に置かれる状況は否定できない。そこで、本レポートでは、デジタル技術やIoT技術導入から始めるインダストリー4.0、スマートファクトリ―を目指す取り組みを勧めたい。
前章でも述べたように数あるデジタル技術の中でも、インダストリー4.0への取り組みの最初の一歩の取り組みとして特に着目したいのはデジタル技術を用いた工場のシミュレーションである。工場のシミュレーションを行い成果を上げた事例をここでは紹介したい。
概要
プラントのデジタルモデルを作成し製品の組み合わせの用意と、システムのプロセスステップのラインバランシングを最適化し、既存の生産セル、生産ライン、製造セルを約3名で短時間で再構成
シミュレーションモデルを、再構築や新しい生産ラインの作成などの戦略的タスクだけに使用するのではなく、運営事業における生産管理に使用
生産ラインのマネージャーと労働者は生産セルを通じて明日の生産量を管理する最良の方法をシミュレート
従業員がシミュレータを使用して生産ラインで自身の作業を最適化
達成事項
継続的改善プロセスの枠組みの中で製造最適化を行うことによりコスト削減を実現
新しい生産ライン構築に約3か月かかっていた時間をシミュレーションソフトウェアで3週間まで削減
Siemens MF-Kは「バーデンヴュルテンベルク州のインダストリー4.0の100の場所」の受賞企業の1つに選出
*6 https://www.plm.automation.siemens.com/global/en/our-story/customers/siemens-manufacturing-karlsruhe/19057/
概要
Mechtopは食品および飲料業界向けのコンベヤシステムなどのカスタム機械を提供する企業
プラントが要件を満たすことを顧客に納得させるにプラントのデジタルツインを利用
食品小売チェーンオペレーターの要求を満たし、その設計のデジタルツインを作成するためにコンベヤシステムの動作シーケンスを3Dで視覚化
マテリアルフローシミュレーションを実装して設計の有効性を証明
達成事項
Mechtopは数日間のトレーニングを受けた後、わずか2か月足らずで、コンテナクリーニングコンベヤシステムの完全なデジタルツインを開発し、要件を満たすことができることを明確に実証
将来的には、プロジェクトで得られたプラントシミュレーションのノウハウをサービスとして提供することを検討
システムの新しい使用事例を仮想環境で検証および最適化したり、システムを構築する前に排出する物質量の見通しを算出等
概要
Magna International IncはMercedes-BenzやBMWを顧客に持つ自動車製造のOEM(システム、アセンブリ、部品の開発、エンジニアリング、製造を提供)
以下2つの条件を基に計画方法とプロセスを確認する必要がありデジタルによるシミュレーションと計画策定を導入
異なる2種類の車両すべてのbody-in-white(車体のフレームを接合する自動車製造の段階、図4参照)を一定期間ほぼ並行して実行
個別のプロトタイプ生産ラインを排除して時間と費用を節約し、シリーズ生産との高い互換性を実現するためにプロトタイプを単一のラインで構築
達成事項
新しい製造プロセスの立ち上げ時間が短くなり、プロトタイプラインが不要になり、既存のリソースを再利用できるため、製造コストが削減
デジタルによる計画により、より高いプロセス品質が保証されることでエラーと材料の無駄が削減
施設の設計とプロセス計画の間の特定のタスクが切り離されるという以前の方法論を排除して、新しいベストプラクティスの洞察を獲得
海外の事例を3つ紹介したが、日本でも経済産業省を中心に自動車メーカーおよび部品メーカーによる先行開発・性能評価におけるバーチャルシミュレーションモデルの標準化についての検討が実施されている。経済産業省は平成29年度研究会の取りまとめとして、自動車メーカー及び部品メーカーとの参加企業が2018年度にMBDの利活用をコミットメントした「ガイドライン」「車両性能シミュレーションモデル」と、今後の戦略である「SURIAWASE2.0」を公表している。*9
シミュレーション技術を含むデジタル技術の導入は、工場設備の新規導入よりも費用面や、導入までのリードタイム、業務への影響が小さい。さらに、クラウドサービスであればサブスクリプションプランを契約するだけで手軽に始められるという利点がある。そのため、まず何かしたいと考えるのであれば手始めにデジタル技術の導入を検討したい。
これまではインダストリー4.0に向けた取り組みの取っ掛かりとしてシミュレーション技術導入を薦め、実際にシミュレーション技術を導入して成果を上げた企業の事例を紹介した。しかし、スマートファクトリ―を目指すには既存の工場設備をネットワークに接続させデータを取得する必要でてくる。もちろんシミュレーションのようにデジタルだけで完結する技術も存在するが、データ収集や分析などのより高度な取り組みを行いたい場合は、デジタル技術と物理的に存在する機器を連携させる問題が存在する。この問題に対処する第一歩となる取り組みとしてラズベリーパイ(Raspberry Pi)によるIoT化の検討を薦めたい。
ラズベリーパイはもともと教育用途で利用されることを想定してイギリスのラズベリーパイ財団によって開発された、ARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータである。ラズベリーパイは2012年以来開発が継続的に行われており、現在(2020年6月)の最新版はRaspberry Pi 4(第4世代)である(図 5)。
ラズベリーパイの主な特徴は安価であること、温度・湿度センサーだけでなく加速度センサーといった様々なセンサーやカメラを取り付けることで出来る拡張性を持っていること、ネットワーク接続できることが挙げられる。これらの特徴からIoT機器としての利用も行われている。インダストリー4.0で注目されている3Dプリンタを制御するために開発されているソフトウェアOctoPrintの導入にはラズベリーパイの導入が必要となっている。また、ラズベリーパイのの産業利用に関する情報を共有するイベントも日本を含めた世界各地定期的に行われている。
ラズベリーパイを使って既存の設備にIoTを導入する取り組みとしては、長野県岡谷町で2016年末に始まった「10万円からのIoT」の活動がある。東京工業大学の出口弘教授の支援の下、ラズベリーパイを使って、工作機械の背面にあるリレーボードの状態をデジタル信号に変換し、工場内の機械の稼働状態をモニター1台で一元的に管理できるシステムを構築している。この活動には製造業の中小企業やソフトウェアを手掛けるIT関連企業が参加している。*11
またラズベリーパイを使った他の事例には、埼玉県さいたま市岩槻区に拠点を置く東京チタニウムが行ったラズベリーパイを利用した工場でのIoT活用に向けた実証実験の事例がある。*12実証実験は、さいたま市産業創造財団や法政大学デザイン工学部西岡靖之教授研究室、スマートものづくり応援隊の大沢誠一氏の支援の元行われた。
実証実験では、照度センサーを取り付けウオータージェット加工機の異常停止や加工完了ランプの光を検知するというものである。照度センサーからの信号をラズベリーパイが受け取り携帯電話のSMS(ショートメールサービス)に「加工終了」「異常停止」を通知する仕組みになっている。実験の結果、加工機の監視時間は1日40分削減され、機械の待ち時間が無くなることにより機械稼働率は12.5%向上された。
東京チタニウム社の事例で採用された「10万円簡易IoTキット」は、さいたま市産業創造財団が経済産業省の「スマートものづくり応援隊」事業の採択を受け、 Industrial Value Chain Initiative(IVI)*13と協力し提供されたものである。IVIはホームページ上で10万円IoTキットについての活用シナリオ(図6)や機器の構成、取り扱い説明書、ソフトウェア仕様書等を公開している。多少の勉強は必要になるが、導入ハードルとなるコストを抑えつつスモールスタートを行いたいのであれば「10万円簡易IoTキット」活用は選択肢の一つとなりえる。
製造の将来予測
本章ではインダストリー4.0によって効率化された結果、どのような未来に製造のあり方が到達するか考察を行っていきたい。
インダストリー4.0の考え方やこれまでに挙げた主要技術を基に製造業の将来を考えた場合2つの可能性が考えられる。①製造業が製品を工場で製造するビジネスモデルが崩れてエンドユーザー(消費者)が製品を自ら製造する未来と、②工場のような生産設備を持つ企業よりもデザインや新技術(知財)開発、材料を取り扱う会社が製造業として力を持つようになる未来である。
①製造業が製品を工場で製造するビジネスモデルが崩れてエンドユーザー(消費者)が製品を自ら製造する未来は、主に3Dプリンタやロボティクス、製造をサポートするAIといった技術や、個人への工作機械のレンタル(シェアリング・エコノミー)から考えられる。
既に現在でも個人向けに工作機器のレンタルサービスは提供されているが、将来的にはより高度な生産・加工設備や、高精度で多種多用な材料を取り扱うことが出来る3Dプリンタ、製造の自動化をサポートするロボティクスがレンタルされるようになると考えられる。また、高度な技能が必要とされる製造設備は機械学習やAIにより技術的サポートを受けることで、専門性を持たない個人が取り扱えるようになる未来が来る可能性がある。他にも、3Dプリンタの製造請負業者が企業向けに提供しているプリントサービス(PaaS : Print as a Service)が個人向けに展開される可能性も否定できない。
前述の可能性が現実となった場合、メーカーは製品設計図を含む知財やデザインのデータを個人に提供するビジネスモデルに変化し、個人が生産設備や生産サービスにアクセスし、好きなタイミングで、色や材質をカスタマイズして作りたいものを製造出来るようになる未来が来ると推測される。現状のマスカスタマイゼーションがより発展した形として実現される。
②工場のような生産設備を持つ企業よりもデザインや新技術(知財)開発、材料を取り扱う会社が製造業として力を持つようになる未来は、3Dプリンタやロボティクス、AIといった技術によりもたらされると考える。先に述べた技術は、技術面や人的資源面から製造設備保有のハードルを下げ、製造業務を行ってきたメーカー以外の業種が製造業務を行うことを可能とする。現在は、材料メーカから材料を調達した製造メーカーが製品製造を行っているが、将来的に材料メーカーが製造も行う可能性は十分に考えられる。
既に鉄鋼メーカーであるArcelorMittal社は3Dプリンタを導入し、自社のプラントの部品を製造している。他にも、ガラスメーカであるAGC株式会社は3DプリンタメーカーのArevo社と業務提携を行い、Arevo社の3Dプリンタ導入と企業向けにプリントサービス提供を実施している。また、半導体設計会社ARMは半導体の設計図を製造メーカーに提供しライセンスフィーを徴収するという知的財産サービスを実施している。
製品の外観という意味での設計図(デザイン)に関しても、3Dプリンタのインプットとなる3Dモデルは既にインターネット上でやり取りをされている(図7)。興味深いのは3Dモデルを設計しているのはプロのデザイナーだけでなく、デザインを仕事にしていない個人も3Dモデルを販売していることである。製造業ビジネスのプレイヤーに一個人が参入できる時代が既にきていると受け取ることが出来る。
今まで示してきた企業は、将来の製造における材料や設計、デザインのあり方及びビジネスモデルを示しているように思われる。現在製造業企業が保有している製造機能や、デザイン・技術開発を行うR&D機能や知財管理機能は、専門の会社に保有され提供される未来が予測される。
つまり、①製造設備を持たない企業の委託性製造や一般消費者への設備の貸し出し業務を行うサービスプロバイダ、②製品の製造に必要なデザインや新技術特許の研究開発とその提供を行うIPベンダー、③新材料の開発と提供を行う材料ベンダーへと細分化されることを意味する。さらに新規ビジネスとして、④今ある製造技術のノウハウをデジタル化・モデル化し製造をサポートするソフトウェアとして提供するサービスプロバイダが誕生する可能性が考えられる。
後書
本ショートレポートでは、インダストリー4.0の現状と将来予測を行うために、インダストリー4.0の概要と主要技術について簡単に記載した。本レポートが未来の製造方法への興味を盛り上げ活用の一歩を踏み出す一助となれば幸いである。Covalentでは、技術を用いたサービス開発や、その実現に資する技術検証サービスを提供しているため、より詳細の分析結果を保有・整理している。
本レポートでは、あくまでさわりの部分に過ぎないが、世の中が変わっていく過程の中で、技術が本当に後押ししている様子を感じて頂けたであろう。
Covalentでは、製造業に限らず、不動産、医療、ヘルスケア、金融、サービス、教育など、幅広い分野で技術的観点から将来戦略を策定するノウハウ及びツールを提供しております。そして、今回ご紹介したインダストリー4.0の概念や主要技術の活用は、様々な分野で強弱は違うが可能である。
現代ビジネスで目の当たりにする変革には、デジタル技術の後押しが必須となりつつある。そのため、今回のような技術的観点からの分析は、今後の事業戦略を策定する上で、必須となるであろう。
本レポートでは弊社の部分的見解しか掲載できていないため、技術的実現性や技術の評価、実際の導入の進め方など、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。
また、技術に関わる事業課題でお困りの際はお気軽にご連絡ください。
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