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地図/位置情報の未来

更新日:2022年5月10日

モビリティ技術の台頭を支えて自動運転時代のインフラになる地図技術、位置情報技術の未来をスタディ


前書

地図/位置情報はこれまでにも様々な場面で活用されてきた。パーソナルコンピュータやインターネットが普及する以前は地形や道路・建物の情報が記載された地図が紙媒体で活用されていたが、普及後は紙面の情報からデジタルで展開される情報に進化した。地図がデジタル化されることで、場所に関する詳細情報(写真や動画、音声)が位置情報として地図に埋め込まれ、地図/位置情報データとして様々な用途で使われるようになった。

地図/位置情報が個人と紐づくようになったのは、GPSの登場によるところが大きい。日本では、GPSは総務省が2006年1月に改正・公布した事業用電気通信設備規則により2007年4月以降販売される携帯電話には必ず内蔵されることになった。その結果、携帯されることが前提として作られているフィーチャーフォンやスマートフォンからは、個人の移動情報がGPSや接続しているWiFiから取得できるようになり、個々人の位置/地図情報がビッグデータとして蓄積されるようになった。現在スマートフォンからはwebアプリやSNSサービスを通じて、単なる座標データだけでなく、座標データが付与された写真や動画データが収集さてれる。

GPSを含む個々人の位置データの取得の仕組みや、蓄積されたビッグデータの活用により地図/位置情報を使ったサービスは多用に発展を遂げた。フィーチャーフォンでの地図/位置情報サービスは現在地や目的地周辺の情報を知るだけのナビゲーションが主だったが、スマートフォンが登場してからの地図/位置情報サービスは、ナビゲーションに加え詳細な店舗の情報(テキスト、写真、動画、音声)の検索サービスや、GPSやARを活用したゲーム、マッチングや写真・動画の共有サービスが提供されるようになった。

本レポートでは、現在どのような地図/位置情報サービスが展開されているのか、位置情報にはどのような種類があるか、位置情報を活用するためのツールにはどのような種類があるか、サービスを提供するためにはどのような考え方をするかについて取りまとめ、現状の地図サービスや位置情報の概観を把握し、今後の利活用や展開の可能性を探りたい。本レポートでの地図/位置情報の定義は、座標(緯度、経度)のデータに1つ以上の属性情報(高度や気温、情報作成者等)が付与されたデータとする。

なお、本レポートでは弊社の技術的観点からの検証の一部分しか掲載できていないため、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。


地図/位置情報サービス例

表1は主な地図/位置情報サービスの例を示している。サービスの分類は①位置情報の利用形態、②GPSやAR・VR利用に必要となるカメラ、IoT機器との連携有無、の2つの観点から実施した。地図/位置情報の利用形態は、単なる座標を示す点(位置)、点と点を結んだ線(経路)、特定の範囲に含まれる情報を取り扱う面(範囲)に分類される。

元々地図/位置情報の活用やサービス提供は、観光や交通の分野での活用が多かったが、近年は人の出会いや第一産業(農業や漁業)の生産者と消費者をマッチングさせるような人のライフスタイルに関係するサービスも数多く見られる。また、新しい活用の形態としてスマートマグやエアコンの温度設定といったハードウェア(HW)の最適化への活用が見られる。家電がIoT化されることで大量のセンサデータが現在収集されていることから今後さらにHWの活用が進むことが予想される。

表1で示したサービスの中で、特に盛り上がりを見せているタクシー配車アプリについてサービス紹介を行いたい。

タクシー配車アプリは、GPSによりタクシー車両の位置データと、携帯電話から取得される乗客の位置データを把握することで近距離にいるタクシーと乗客をマッチングすることで提供される。さらにアプリ提供元は位置情報を取得し、適切なデータマネジメントを行うことで配車数や位置の管理を行い、ユーザーエクスペリエンスの向上を図っている。

代表的なタクシー配車アプリとしては、JapanTaxi(JapanTaxi)や、MOV(DeNA)、DiDi(滴滴出行)、S.RIDE(みんなのタクシー)がある。主な機能は、「タクシーの配車」、「タクシーの予約」、目的地までの「料金検索」、タクシーの運賃を支払う「決済」がある。主な収益源は、タクシー会社が支払う利用手数料だが、タクシー車内における動画広告配信や、タクシーが取得した環境・気象や路面状況、座標データを基にしたデータプラットフォームの運営(図1参照)による収益拡大も図られている。

タクシー配車アプリの盛り上がりは、新しい交通システム(Mobility as a Service、MaaS)※を構築する上で重要な役割を果たすことが期待されているからである。JapanTaxiは、MaaSプラットフォームの構築や新タクシーサービス創出を目的にKDDIと2020年3月26日に資本業務提携を行い、DeNAのタクシー配車アプリ事業と2020年4月1日に統合するといった活発な動きを見せている。また、滴滴出行は2019年にトヨタ自動車と協業し中国におけるMaaS領域での事業拡大を行っている。

※ ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念

(引用:国土交通省、 https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf )


位置情報に使われるデータ

位置情報に使われるデータ形式には、ベクタ形式とラスタ形式がある。表2はベクタ形式とラスタ形式の主な違いを示している。それぞれ特徴があるため用途・目的によって使い分ける必要がある。

ベクタ形式は点(ポイント)や線(ライン)、面(ポリゴン)で構成されている地図や特定人物の移動情報等の座標や形状が重要で属性情報が1つしか表示されなくても問題がない場合に利用されることが多い。ラスタ形式は衛星画像や気温等の場所によって属性情報が異なり複雑な表現をする場合に利用されることが多い。

ベクタ形式やラスタ形式はイラストや写真等の画像フォーマットでも同じ意味で用いられる。画像の編集においてベクタ形式を取り扱う代表的なソフトウェアとしてAdobe Illustratorやinkscape、ラスタ形式を取り扱う代表的なソフトウェアとしてAdobe PhotoshopやGIMPがある。これらのソフトウェアを触った経験があればどのようなデータであるかが容易に想像がつくと思う。



代表的なツール

地図/位置情報を扱うための主なツールには、自分のパソコンにインストールしてデータを分析するのに利用するDesktop GIS、自分のパソコンにインストール不要でインターネットを経由して使うことが出来るWeb GIS、大量の地図/位置情報を格納し分析を行うためのデータベース管理システムのGIS Serverがある。そして、近年企業での活用が増えているBI(Business Intelligence)ツールも地図/位置情報に対応しており、データの可視化や分析が行えるツールといえる。PythonやRといたAI・データサイエンス分野で活用されているプログラミング言語でも地図/位置情報を分析するためのライブラリが開発されていたり、Desktop GIS、Web GIS、GIS Serverの機能にアクセスするためのライブラリが数多く開発されている。表3にツールの分類と代表的なツール/サービス名を記載する。

表3では、有償ツールと無償ツールの両方を記載している。有償の方は主に企業によって開発されており、無償の方はOpen Source Software(OSS)のプロジェクトとして一個人の有志や企業が参加する運営コミュニティによって開発されている。有償、無償のツールの大きな違いとしては提供されるサービスの品質やサービスの保障、サポートの有無がある。無償ツールの利用はトラブルが発生した場合にユーザーで対処が出来ることが前提となる。ただし、コミュニティに質問を挙げて対処方法を問い合わせることは可能なため、リテラシーのあるエンジニアや非エンジニアであれば無償ツールでも使いこなすことは容易である。また、日本のコミュニティももちろんあるが英語でのコミュニケーションが苦でなければ海外のコミュニティともやり取りをすることは可能である。

無償ツールは、公共機関で利用されるケースが多い。ただし、一般企業においても、無償ツールはライセンスの制約が有償ツールよりも少ないことから、自社製品やホームページに組み込んで用いられるケースがある。Web GISのひとつであるOpen Street Mapはオンプレミスでサーバーを構築・運用することができるため、負荷の管理が必要となるサービスやイントラネット内でのプライベート地図サービスに用いられることがある。

ツールの分類について示したが使われる場面がそれぞれ異なる。学術的な分析やマーケティング分析といった複雑な分析を行う場合はDesktop GISやGIS Server、BIツールが用いられる。インターネット上で地図/位置情報を可視化させたい場合は、Web GISやBIツールが用いられる。インターネットに接続されたホームページやWebアプリケーション、スマートフォンのアプリケーションであれば、サービスプロバイダが提供しているWeb GISの機能にアクセスするためのAPI(Application Programming Interface)を使うことで容易に地図サービスの機能を実装することが出来る。表4はWeb GISがAPI提供している主な機能を示している。表4はWeb GISがAPI提供している主な機能を記載している。

マッチングサービスを例に半径1km以内の会員を距離で昇順に示す検索サービスの処理ステップを簡単に書き下すと以下となる(図2参照)。

① 点:オブジェクトのデータ(座標や年収、職種等の属性情報)整備

② 面:検索円(例:半径1km以内)の設置と含まれるオブジェクト抽出

③ 線:オブジェクト間の距離計算

④ 点:検索結果の表示

人に関するサービスを想定して例を示したが、属性情報が不動産や飲食店、観光地に関連した項目に置き換えることで任意の検索サービス開発が可能である。

マッチングサービスを例にとったが、基本的には点と線と面の組み合わせでサービスは考えていくことになる。また属性情報が今回は数値やテキストだったが、写真や動画、音声ファイルを扱うことを視野に入れることも出来る。

注意する点は、地図/位置情報はデータ量が大きくなる傾向があることだ。それは、時系列データの蓄積や空間解像度の高度化、属性情報の多様化によってもたらされる。データ量が大きくなることは、処理の負荷を高めることになり結果として画面描画の遅延によるユーザーエクスペリエンスの低下を招くことになる。どのようなデータを取得するかや、どのようなサービスを提供するかはよく考える必要がある。

大容量のデータを高速処理するためにはデータベースの整備や、GISに実装されるデータ分析に最適化された機能の活用、分散並列処理の導入や、オンプレミスからGoogleやAmazonが提供しているクラウドコンピューティングサービスへの移行などが考えられる。


将来予想

高速インターネット回線や、高速CPU、GPUコンピューティング、並列分散処理技術、クラウドコンピューティングの登場により大容量のデータを安価で高速に解析・処理出来るようになった。その結果、現在第三次人工知能(AI)ブームの中に存在し、AI技術の利用は拡大の一途を辿っている。この影響は地図/位置情報にも波及している。現状は機械学習を使った分析がメインだが、今後は空間統計学を使った高度なマーケティング分析の事例が増える可能性が高い。

また、既存技術の発展や新技術の登場に合わせて人々の移動に関するライフスタイルも変化を続けている。XR技術やBrain Machine IFなどに代表されるコミュニケーション技術の進化や、Immersive Technologyに代表される仮想体験技術の進化などがそれにあたる。それらの変化によって、地図/位置情報のサービスがどのように変化するか最後に述べていきたい。

エネルギー枯渇、デジタル技術の発展は、人々の移動機会そのものを大きく減少する可能性を秘める。具体的な要因としては、①石油や天然ガスなどの地下資源の枯渇・希少化による移動コストの増大、②宅配サービスやロジスティクスの更なる高度化による名産品や日用品の入手難易度の低下、③非日常の体験(旅行・観光)や情報収集を目的とした物理的な移動のXR(VR、MR、VR)をはじめとしたデジタル技術による代替だ。

本レポートテーマに沿って、特にデジタル技術について具体例を挙げさせて頂くと、それら技術開発は日々進んでおり、H2L社が提供する筋変位センサーを活用し人の動きとコンピュータが相互伝達して他人の体験やXR空間の体験を体に伝える「BodhSharing技術」や、イーロン・マスク氏のNeuralink社やFacebook社が開発している脳とコンピュータを直接つなぐ「Brain Machine Interface」のような身体に直接フィードバックを与えることが出来る技術が登場している。これらの技術はデジタルの体験をよりリアルな体験に近づける技術である。

デジタル技術の発展によりデジタル世界が展開された未来では、人の移動に伴う地図/位置情報はバーチャル・リアリティ内での移動に関する情報(Cookieのようなものを想定)の取得に置き換わると推測される。一方で、建物や環境、無人搬送ロボットが収集する地図/位置情報は、人の移動が少なくなる未来においては、現状よりも重要度が高くなる可能性が高い。デジタル世界における観光コンテンツや名産品・日用品の宅配サービスは大容量・高解像度の現実で収集されたデータに基づくからである。

今から質の良い動画や音声データ、気温や湿度といった環境情報を含んだ地図/位置情報の収集やコンテンツの作成に取り組むことは、XRやより進んだ技術でのデジタル世界構築に活用できると考えられ、将来への投資のひとつとなると思われる。現在研究開発が進められている自動運転が普及した未来においても、移動中に消費されるエンターテイメントとしての観光コンテンツの需要や無人宅配サービスの需要はあると推測される。

将来のロボットのために人間がデータ収集の役割を担い、近い未来ではそれら役割をロボットのみで実現され、ロボットの移動最適化技術の進化が人間の移動機会を大幅に縮小する可能性も秘める。


後書

本ショートレポートでは、地図/位置情報を活用した新しいサービス創出の可能性を探索するために、既存サービスやデータ、ツールといった地図/位置情報の技術の概要を記載した。本レポートが読者の地図/位置情報への興味を盛り上げ活用の一歩を踏み出す手出すとなれば幸いである。Covalentでは、技術を用いたサービス開発や、その実現に資する技術検証サービスを提供しているため、より詳細の分析結果を保有・整理している。

本レポートでは、あくまでさわりの部分に過ぎないが、世の中が変わっていく過程の中で、技術が本当に後押ししている様子を感じて頂けたであろう。

Covalentでは、地図/位置情報に限らず、不動産、医療、ヘルスケア、金融、サービス、教育など、幅広い分野で技術的観点から将来戦略を策定するノウハウ及びツールを提供しております。そして、今回ご紹介した地図/位置情報の活用は、様々な分野で強弱は違うが進んでいく。

現代ビジネスで目の当たりにする変革には、デジタル技術の後押しが必須となりつつある。そのため、今回のような技術的観点からの分析は、今後の事業戦略を策定する上で、必須となるであろう。

本レポートでは弊社の技術的観点からの検証の一部分しか掲載できていないため、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。

また、技術に関わる事業課題でお困りの際はお気軽にご連絡ください。

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