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組み合わせ最適化技術の将来

更新日:2022年5月10日

前書き

高速CPU、GPUコンピューティング、並列分散処理技術、Amazon Web Service(AWS)の様なクラウドコンピューティングの登場により大容量のデータを安価で高速に解析・処理出来るようになった。その結果として、現在は2000年代から続いている第三次人工知能(AI)ブームの中に存在し、AI技術の利用は拡大の一途を辿っている。

一般的にAIと呼ばれている技術群から代表的な技術を挙げると機械学習、数理最適化の2つが考えらる。機械学習は、端的に説明すると、人間が持っているパターン認識能力を機械で代替する技術といえる。近年で著しい発展を遂げている機械学習技術の1つである深層学習は、言語解析や音声、画像・動画認識の分野で利用が進み、AmazonやGoogle、Microsoftといった大手IT企業からもAI認識サービスの提供が行われている。

一方で、数理最適化は与えられた制約条件の下でより良い解を導き出す技術である。特に数理最適化技術の1つである組み合わせ最適化は、大量にある組み合わせからより良い組み合わせを高速で出力する量子コンピュータの実用化が近づいたことや、GPUコンピューティングと高い親和性を持つ強化学習を用いたアルゴリズムが登場したことで注目を集めている分野でもある。組み合わせ最適化は、金融業界でのポートフォリオの組み合わせ最適化や、創薬におけるリード化合物の組み合わせ・順序の最適化、新幹線の先端ノーズの設計、航空機のエンジン設計といった特定の分野で活用されているが、一方で、いくつかの技術的課題が存在していることにより深層学習と比べると広く一般的な層への普及は進んでいない。

組み合わせ最適化の技術利用が幅広く一般的な層まで普及するときに立ちはだかる課題としては、①ビジネス知見や技術といった専門性が求められ敷居が高い、②現状のハードウェア・ソフトウェアが一般普及に要求されるレベルに追いついていない、という2点が推測される。これらの課題はビッグデータ解析や、機械学習技術の活用、今後の技術革新で解決されることが想定される。

本レポートは組み合わせ最適化の現状と普及したときの将来事情について取りまとめた。そのため、本レポートはあくまで潮流となるキーワードに対してどのような技術が進化することで、実現が近づくのかにフォーカスしたい。

なお、本レポートでは弊社の技術的観点からの検証の一部分しか掲載できていないため、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。




これまでの技術進化の系譜と課題

組み合わせ最適化は、①現実問題の把握、②数学的な式(モデル)への変換、③モデルを解くためのアルゴリズム実装、④アルゴリズムに従った組み合わせの導出、の4つのステップに分解できる。現在までの組み合わせ最適化に関わるハードウェアやソフトウェアの技術進化は、主に③、④に対して影響を与えているものである。

図1は組み合わせ最適化に関わる技術変遷を示している。組み合わせ最適化のアイデア登場は1784年までさかのぼることができる。この時代はコンピュータが存在しないため、組み合わせ最適化の全ステップは人力で行われていた。人力での計算は、現在のコンピュータが処理を実施する状況と比べると、制約の数と全組み合わせ数が少ない問題しか解けず、さらに、計算速度が遅く解の正確性が保証されないという可能性もあった。

1944年に電気計算機としてコンピュータが登場し、以降数値計算処理のメインストリームはコンピュータが担うことになった。組み合わせ最適化を含む数値計算はアルゴリズムをプログラムとして記述し、コンピュータにプログラムを読み込ませることで機械的に処理を行うという方式に置き換わった。この置き換わりにより人間は組み合わせ最適化を行う労力を大幅に削減することができ、人力で行うよりも大規模な計算を高速に安定して実施できるようになった。コンピュータの登場により現在残っている人間が行うべき作業は、①現実問題の把握と、②モデルへの変換のみとなった(研究・開発のレベルを除く)。



しかしながら、ハードウェア・ソフトウェア両方で様々な技術が発展し改善を遂げた2020年現在でも、依然として組み合わせ最適化には一般層への普及に対する課題が残っている。

普及に対する課題はすでに前書で指摘したが、専門性による敷居の高さについての課題は①問題の設定、②モデル化に分解され、ハードウェア・ソフトウェアについての課題は③技術的に解けない問題、④組み合わせ最適化技術へのアクセスに分解される。

はじめに①問題の設定についてだが、どのようなビジネス課題が組み合わせ最適化の技術で解くことができるのか、また解く価値があるのかということを考えるのに専門的な知見が必要になることが課題として挙げられる。

次に②モデル化についてだが、現実のビジネス課題を数学的な形式に落と込むことが難しい点や、どのような組み合わせが良い組み合わせであるかをを評価するための軸がない、もしくは設定することが難しいということが課題として挙げられる。

次に③技術的に解けない問題については、組み合わせ数が多すぎて評価が難しいという問題や、問題が複雑なためコンピュータが解くことが出来ないという問題、解けたとしても時間がかかりすぎて実用に耐えないという問題があることが課題として挙げられる。ここで挙げた問題は、処理能力が十分でないというハードウェア的な制約と、アルゴリズムで対応できていないというソフトウェア的な制約、ハードウェアとソフトウェアの両面の複合的な制約により発生する。

最後に④組み合わせ最適化技術へのアクセスついては、AmazonやGoogle、Microsoftが提供している機械学習や深層学習を使ったAIサービスのように容易に組み合わせ最適化技術の利用を開始できるわけではないという現状が課題として挙げられる。

以上、4つの課題を組み合わせ最適化技術が一般層へ普及するのを妨げる課題として整理する。


将来展望

本章では、前章で挙げた課題が解決され組み合わせ最適化技術が一般的になった時の将来を想定して現状との比較を行う。

はじめに現状についてだが、表1の例1から4までは現状でも組み合わせ最適化の技術が用いられていることが確認される。一方で、例5、6では各々の領域で専門家による人力での組み合わせ最適化が行われており、機械的な処理による組み合わせ最適化の技術は用いられていないことが確認される。

次に将来についてだが、表1で記載している将来の状況(未来)は大きく3つに分類することができる。①組み合わせ最適化問題の技術が現状よりも大規模で複雑な問題に対応しリアルタイム性を伴うことになった未来(例1、2、3)、②現在のAI民主化の流れのようにAIソリューションを提供するサービスプロバイダが登場し、組み合わせ最適化の利用が幅広い分野で一般的な利用者に普及した未来(例4)、③ビッグデータ解析により個々人の嗜好や判断の優先順位がモデル化され個々人にカスタマイズ・パーソナライズされた商品・サービスが登場する未来(例5、6)に分けられる。



サービス化に向けた取り組み

これまでは、組み合わせ最適化が直面する現状と普及が進んだ将来についての見解を記載してきた。本章では現在と未来の隔たりを埋めるための取り組みについてフォーカスしていきたい。

将来との隔たりを埋めるためには、ハードウェアとソフトウェア両方での技術革新と、現実問題の把握やモデル化で求められる専門性を低くするための取り組みが不可欠である。

ハードウェアとソフトウェアの技術革新では、現在の技術では解けない規模や複雑さによるの問題を解消する取り組みと高速化の実現が求められる。規模や複雑性、高速化の問題は、量子コンピューターやGPU、分散環境の登場のようなハードウェア上の技術革新と、強化学習のように新しく登場したハードウェアに最適化されたアルゴリズムの開発というソフトウェア上の技術革新で解消されると想定される。ただし、技術革新の恩恵が一般利用者にもたらされるためには、調達コストが大きい量子コンピューターや並列分散処理環境といった計算資源を貸し出すサービスプロバイダの登場が必須である。

専門性を低め一般利用者に普及させるための取り組みとしては、ソリューション単位(スケジューリングやルート最適化)で使いやすいインターフェースを伴ったサービスを提供するプレイヤーの登場が考えられる。また、専門家によるビジネス問題のモデル化というタスクは、自由記述から組み合わせ最適化技術で解くための数理モデルに変換する自然言語処理技術を用いたソフトウェアの登場により、専門性が低い一般利用者でも実施可能になると推測される。

上記で挙げた課題解消の議論は、利用者が技術革新を待つ消極的かつ受け身の形で展開した。しかし現在の組み合わせ最適化技術で解ける問題については、技術サポートがあれば専門家でなくともサービス開発を行うことは可能である。また、現状の技術では最適化問題を解くことが難しい場合でも、将来的な技術革新を想定して今からサービス開発を段階的に行うことは可能である。

そこで、今から出来るサービス化に向けた取り組みにはどのようなものがあるか検討を行いたい。

まず、ビジネス課題をモデルへ変換するタスクをサポートするツール開発が挙げられる。特定範囲のビジネス課題に限定することで、ルールベースや自然言語処理を利用したモデル作成のサポートツールを開発することは可能だと推測される。システム開発や機械学習を用いたサービス開発の経験がなくとも、現在の世の中では、システム開発や機械学習・深層学習のエンジニアに開発業務をアウトソースすることは容易である。

次に、パーソナライズ・カスタマイズサービスを開発するために必要となるデータの蓄積が挙げられる。蓄積されたデータを分析することで、勘や経験からその領域の専門家が主観で決めていた組み合わせを、個々人の好みなどに即した適切な組み合わせを、最適化技術を用いて求めることが出来る。


考察

これまでは、組み合わせ最適化の技術が普及し一般的に利用される未来やそのための課題を整理してきた。現在起こっているAIを誰もが使えるようにする「AI民主化」の流れのように、組み合わせ最適化の分野でも技術革新が発生し、条件が整うことで利用の敷居が下がると考えてきた。さらに、様々な分野で多くの企業が技術を活用し、一般市民がサービスとして最適化の恩恵に預かることが出来る未来を想像してきた。

しかし、必ずしも組み合わせ最適化技術の普及がメリットばかりを産むとは限らない。表2は組み合わせ最適化技術が普及したときのメリット・デメリットを示している。オーバーフィッティングが機械学習において問題視されるように、組み合わせ最適化でも過度な最適化は人や産業にデメリットをもたらすことが推測される。

ただ1つの最適な組み合わせが確実に存在しない場合や、意外性が求められるような場合では、どのように組み合わせ最適化技術を使っていくか考えることが求められる。

「唯一無二」「最適」の言葉の定義や、発掘する楽しみや出会いがしらの驚きは、科学の進歩に伴い変革することが是なのだろうか。その先の世界での産業競争は科学技術の進化が求めた「最適」なのだろうか。




後書

本ショートレポートでは、現在AIと呼ばれる技術群のひとつとして存在するいる組み合わせ最適化の現状を把握することと、将来の普及状況の予測についてを記載した。もちろん、Covalentでは、技術的検証や事業開発に特化したサービスを展開しているため、より詳細の検証結果を整理している。

本レポートでは、あくまでさわりの部分に過ぎないが、世の中が変わっていく過程の中で、技術が本当に後押ししている様子を感じて頂けたであろう。

Covalentでは、AIや組み合わせ最適化のような汎用的な技術トピックに限らず、デジタルツイン、ブロックチェーン、オートメーションなど、幅広い先端技術分野で技術的観点から将来戦略を策定するノウハウ及びツールを提供しております。そして、今回ご紹介した組み合わせ最適化の将来予測は、本レポートで取り上げた以外の業界においても、強弱は違えど進むことは確実。

現代ビジネスで目の当たりにする変革には、組み合わせ最適化同様、技術の後押しが必須となりつつある。そのため、今回のような技術的観点からの分析は、今後の事業戦略を策定する上で、必須となるであろう。

本レポートでは弊社の技術的観点からの検証の一部分しか掲載できていないため、より詳しく内容を知りたい場合はご連絡ください。

また、当該レポートに関わる技術および事業課題でお困りの際はお気軽にご連絡ください。


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